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 サミュエルの正体は、この国の皇太子である。サミュエルと言う名は偽名だ。  島流しになったはずだが、役人にいくらかの袖の下を渡したら、あっさり逃がしてくれた。  しかも、頃合いを見て、皇太子が従者ともども流行り病で死んだという嘘の報告を、都に送ってくれるらしい。  パーシスはサミュエルの従者だった。ちなみに、こちらも偽名である。  パーシスが十二歳で宮廷に上がった時から、二人はほとんどの時間を共に過ごしてきた。サミュエルの島流し先にも、たった一人で付いて来たほどだ。 「お前には済まないと思ってる。いつか故郷に返してやるからな」 「いいえ。父も母も、私が宮廷で仕えることになった時点で、もう戻ってこないものと覚悟していたそうです」  二人が荷馬車で向かっているのは、前の国王が私財でこっそりと囲っていた土地だ。いわゆる隠し里というやつである。  サミュエルの少ない荷物の中には、先王の頭髪が一筋入っている。隠し里に着いたら、墓を立てて弔うつもりだ。 「かわいそうな父上。王としての役割を終えた今は安らかに眠れるように…」  決して愚かな王ではなかった。しかし、その周りにはそれぞれの勝手な思惑が渦巻いていて、なかなか思うようにできない状態だった。 「しんみりと考えていても仕方がない」  そう言ってサミュエルは前を向いた。 「これから向かう隠し里は豊からしいぞ。毎日が宴会だそうだ」 「その勢いでお家を再興しましょう!」  パーシスが勢い込んで言った。さっき言っていたこととは矛盾するが、こういう可能性も秘かに考えていたらしい。  しかし、サミュエルは首を横に振った。 「王様なんて、やりたい奴がやればいいって言っただろ」
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