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「あぁ!だりぃ!くそだるい!」
大輔が他人の部屋で喚いている。
それも大の字になって。夏休みが始まると毎度の事なのでもう慣れた。
「じゃあバイトでもしなよ」
静かに漫画を読んでいた宏がうんざりとした顔で大輔を見る。余計ダルい、なんてこれまたお決まりの文句が返ってくると、いつもならここで僕が「じゃ、勉強」とやりもしない提案を取り敢えずするわけだけど、この日僕は初めて違う事を言ってみた。
「じゃ、今年は夏中かけて何か一つの事をやってみない?」
寝そべっていた大輔が起き上がる。と、同時に宏が漫画から顔を上げて僕を見た。
「何かってなに?」
「それをみんなで考えるんだろう!」
翌日の昼過ぎ、僕らは商店街にある本屋にいた。何かっつったら、取り敢えずバンドだろ、と大輔が安易に言い出したからだ。狭い店内で楽器や楽曲の本を流し見る。
「ってゆうかさ、誰か楽譜読めんの?」宏が興味無さげに呟く。
誰も答えずにいると宏の眉間にシワがよった。
「じゃあ、楽器持ってるヤツは?」
僕が聞くと、二人は首を横に振る。即座に宏が「却下!」と叫んで隣の通路に消えた。大輔と顔を見合せてしばらくすると、宏が地図を持って戻って来た。
「自転車で旅とかどう?定番でしょ!」
今度は僕と大輔の眉間にシワがよる。大輔は死ぬ程面倒くさがりだし、僕は体力に自信がない。けれど折角の意見なので、音楽の本と地図を買って僕の部屋で検討する事にした。
レジに本を持っていくと見慣れた顔がそこにはあった。
「なに、高橋君たちバンド始めるの?」
クラスメイトの柿崎紗栄子だ。そうか、ここは彼女の両親がやっている店だったな。夏休みは手伝っていると言っていたっけ。隣の大輔を見ると、得意気な顔をして彼女に格好をつけていた。
「まぁな、暇もて余してるとかカッコ悪いだろ?」なんて言ったりして。
「頑張ってね」
彼女に見送られ僕らは店を出た。
「何だよあれ、俺らは暇をもて余したカッコ悪い方だろ!」
「うるせぇよ!」
くさす宏に大輔の蹴りが入る。そんな二人を笑ったら、双方から小突かれた。
部屋へ着いて、途中コンビニに寄って買ったアイスを頬張りながら頭を付き合わせる。雑誌と地図を並べて「ううん」と三者三様に唸り声を上げた。
「楽器はすぐに買えないし、やっぱ自転車でしょ」
「ええ・・・・」
宏の提案に、すぐさま大輔の不満がもれる。
「ってゆうかさ、渉は何がしたいんだよ」
大輔の問いで、二人の視線が一斉に僕に集まった。僕は正直何も考えていなかった。
大体、採用されるとは思わずに言ったのだ。でもこうなると何か言わなければいけない。そこで、頭に何となく浮かんだ物を口にした。
「鳥人間コンテスト」
大輔と宏がキョトンと僕を見ている。はぁ、と大輔がため息をつくとそのまま寝転んだ。宏は地図を眺めやっぱ自転車だなとブツブツ呟いている。
「え?だめなの?」
「それこそ今からどうにも出来ないだろ!」
「ってか鳥人間コンテストってまだやってるの?」
なんて言ってるうちに僕らの夏休みはどんどん過ぎて、課題に追われる日々が始まり、あっという間に新学期になった。
実はあれから宏の自転車案が採用され、体力作りの為に走り込んだりもした。まぁ、あんまり長くは続かなかったけど。
なのに今年は急に思い立ったからだの、来年はやろうだのと、何一つしていないのに充実した顔のコイツらが可笑しくて、僕は「そうだね、来年は絶対に」なんて言いながらも、きっと来年も同じことをしていそうだなと何故か嬉しくなった。
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