きっかけ

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 大学の授業。早めに来て、後ろの方の席に座るのが習慣だった。 「おはよ」  少し遅れてやってきた颯太が隣に座る。 「おはよう」  私は頬杖をついたまま、挨拶した。 「どうした?」 「また、熊がいる」  颯太がさっと、私の視線を追い、クスリと笑った。 「今日はツキノワグマだ」  ちょうど、真横のところに熊と呼んでいる相手がいた。手の甲にまで毛が生えているような体格のいい男性で、今日の服装は黒いセーターの首元に白いラインが入っていた。  思わず、吹き出してしまった。 「もう、やめてよ」  颯太はすぐに笑わそうとする。一緒にいて、気楽だ。 「ほら、睨まれたじゃない」  熊さんを見て、笑ったのがバレたようだ。 「熊だから仕方ない。熊だから一人ぼっち」  颯太が歌うようにささやく。  確かにいつでも、一人でいるようだ。 「友達が別の授業をとっているだけじゃない」 「いやあ、友達がいないタイプだと思う」  そんなことを言っていると、教授がやってきたので口をつぐんだ。  授業中、ずっと、熊さんがこちらを見ているような気がした。
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