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『山の天気は変わりやすいなあ』なんて呑気なことを言っていたが、施設の管理者から『山頂あたりの雨が強いので避難するように』という連絡があり、とりあえず頑丈な造りの本館へ移動しようかと、テントに備え付けの傘を取って外に出た。
まだ大雨とは言えない程度の降り方で、「気をつけろよ」と浩輝に声をかけられ、手を出された。
その手を取ろうとした時、突然の鉄砲水に襲われた。
先にグランピングの、丸いドームのような建物から出て階段を降りていた浩輝は足を取られ、私は咄嗟にその手首を掴んだ。
私は片手で建物の柱を持ち反対の手で浩輝の手首を掴んで引っ張り上げようとしたが、土の混じった茶色い水の勢いが強くなり、頼りない建物の土台さえも引きずられるような状態になった。
だんだんと強い雨雲がこちらに流れてきて激しい雨が体を打ち付け、視界を遮った。
水の流れは激しくなり、木の枝や小石も混ざるようになって浩輝の体と私の手に傷をつけた。
目に雨の粒が入るのも構わず、私はぐっと浩輝の手首を掴み、踏ん張っていた。
その時までは確かに浩輝の手も私の手首を掴んでいたはずだ。
なのに……。
「もう少しだからっ、頑張って!」
「ダメだ、離せ。柚葉っ!」
「ダメッ!」
たとえ私の腕がちぎれようとも絶対に離すものかと手に力を入れた。
その時だった。
彼が手を開いて私の手首を離し、掴んでいた私の手をパンと弾いた。
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