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手が離れ、私は必死で手を伸ばした。
そして、彼は消えた。
消えたのだ。
流れていくでもなく遠ざかるでもなく忽然と。
しかし、しっかりと私の手首には浩輝の手の感触と、赤い跡と痛みが残っていた。
私はへなへなとその場に座り込んだ。
目の前は暗闇の中バキバキと周辺の木をなぎ倒し、河原を削りながら流れていく濁流。
痛いほど激しい雨の降る音が全ての音を奪っていた。
遺体は見つからなかった。
通夜の際、私は浩輝の家族から怒鳴られ罵られ、お葬式に出ることもできなかった。
出るつもりもなかったけれど。
あれから3年半。ようやく痛みも和らいできたというのに。
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