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そんなことも忘れて仕事に没頭し、一度飲み物を取りに給湯室へ向かった。
マグカップにコーヒーを入れ、振り返ると給湯室の入り口を塞ぐように野崎さんが立っていた。
「あの、すみません、出ます。」
野崎さんの脇をすり抜けて出ようとしたが、ずいっと前に立ち塞がれた。
「椎名さん、人事に聞けば君の実家の連絡先がわかるんだけど。」
「…はい?」
「緊急連絡先に実家の電話番号を登録してあるでしょ。
今の状況、緊急事態だよね?」
「なにを言っているんですか。」
「椎名さんが好きなんだ。」
「ちょっ、こんなところでなにを言っているんですか。」
「前から気にはなっていたんだけど、あのストーカーが現れてから確信したんだ。」
「ストーカーじゃないです、ちゃんとした彼氏です。」
「でもあんな、なにをしているかもわからないような奴…。」
どうしようもなくムカムカする。
たしかに浩輝が『あちら』の世界でどんなことをしているのか、具体的には知らない。
でも私を迎えるために努力して基盤を整えたと言っていた。
なにより、私はもう浩輝と離れては生きていけない。
浩輝のことを悪く言ってほしくない。
「ごめんなさい、野崎さんのことは仕事でお世話になっている方としか思えないです。」
「ご実家に連絡するよ?」
「プライベートの侵害です。」
「危ないのを見過ごす訳には行かないだろう。」
なにを言っても通じない。言いようのない怖さを感じる。
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