1話「朝の日課」

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1話「朝の日課」

───ピピピッ 鳴り響くアラームの音を止めて目を覚ます。 時刻は5時半だ。 のそのそと起き上がって俺は部屋を出た。 俺の名前は鈴木涼太(すずきりょうた)。 高校2年の目立たない一般生徒。 今日も俺はいつもと変わらずキッチンへと向かった。 両親と自分の分の朝食と弁当を作ること。 それは俺の日課であり義務だ。 父さんは完璧主義者で言ってしまえば頭の硬い人間だ。 俺の行動が気に入らなかったらすぐに叱責(しっせき)が飛ぶ。 父さんの機嫌を損ねてしまったら大変だ。 だから俺は言われた通りにいつも早起きして朝食と弁当を作る。 ──グラッ 不意に目眩(めまい)に襲われたが耐えた。 「はぁ…」 溜め息をついて顔を上げると母さんがリビングに顔を出した。 「りょうくん…」 慌てて俺は笑顔を貼り付けた。 「母さんどうしたの?」 母さんは心配そうな顔で俺を見つめた。 「顔色悪いわよ…休んだ方が…」 「母さんだって分かってるでしょ?休んだら父さんに怒られるし俺は大丈夫だから」 母さんの言葉を遮って俺は笑顔を向けた。 “父さんに怒られる”。 完璧主義者な父さんにとっては学校を休むなんてもってのほか。 体調が少し優れないくらいなら我慢して学校に行きなさい、と言う人だ。 それを無視して休もうもんなら何を言われるか分からない。 この家では父さんの言うことが絶対。 母さんでも手に負えないことなんだから。 「ちゃんと学校に行くよ」 母さんは「無理はしないでね」と俺に言ってリビングから出て行った。 俺も食事の準備が終わったのでさっさと朝食を済ませて自室へ戻る。 部屋に入ってひと息つくと頭に鈍い痛みが走った。 顔を歪め、常備している頭痛薬を手に取った。 ただの気休めにしかならないけれど薬を飲むに越したことはないだろう。 まだ痛む頭から無理矢理意識を逸らして立ち上がった。 制服に袖を通す。 季節はもう夏目前で蒸し暑い。 その為半袖の制服なのだが、はみ出た腕に残る傷が痛々しい。 あれは小さい頃父さんを怒らせちゃった時に突き飛ばされてできた傷で、こっちは比較的最近できた(あざ)。 我ながら痛々しいなぁと思いながら厚手のパーカーを手に取り袖を通した。 「行ってきます」 誰に言うわけでもなく呟き俺は学校へ向かった。
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