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依頼というのは、犯罪のプロデュースの依頼だろう。やっぱり、この人は犯罪者なんだ。
指名手配をされている遠山さんが出て行くということは、いつもの平穏な日常が戻って来るということ。そもそも、彼に脅されて渋々この生活が始まったのだから、これは嬉しい報告であるはずなのに……。
「そんな顔して、どうしましたか?」
コーヒーをローテーブルの上に置き、遠山さんが私の頰に触れる。私よりずっと大きな手は、何人もの人を手にかけてきた。それなのに、まるでマジシャンのように繊細で綺麗な手だ。そして、温かい。
「そんな顔をされたら、私、歯止めが効かなくなるじゃないですか」
いつの間にか私の手からマグカップは奪われ、ローテーブルに置かれていた。そして、初めて会った時のように押し倒されてしまう。
「あなたは今、どんな気持ちを抱いてるんです?」
遠山さんに訊かれ、私はこの胸にストンと落ちてきた感情を告げる。
「……寂しい、です」
当たり前だった平穏な日常に、まるで嵐のように遠山さんは入り込んできた。脅された。恥ずかしい思いをした。最初は犯罪者の彼が怖かった。でも、遠山さんはこの家の中では「どこにでもいる男性」だった。
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