さいごの一服

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 結婚式を翌日に控え、粛々と準備に(いそ)しむ彩佳であったが、やがて、なんとなくソワソワしはじめる。タバコの本数が少ないことが原因だろうか。  普段であれば、朝起きて、まずは寝起きの3本だ。タバコを吸うのは今日が最後…と、一応決めていることもあって、今朝は2本にとどめた。それにしても、この()に及んで、まだ止められないらしい。朝食のあとも、いつもなら4本のところ、この日は3本のタバコを(たしな)んだ。  明日の式は、彩佳の地元・青森で行われる。当座、新婚旅行の予定はなく、式が終われば、一路九州へ飛んで新生活のスタートである。とあれば、達也の地元である宮崎で式を挙げたほうがよさそうだが、高齢であるが故、長距離の移動が難しい彩佳の祖父母に、花嫁姿を(じか)に見てもらいたい、といった思いから、ここ青森での挙式ということになった。  午後は、達也をはじめ、親族一行が大挙してやってきた。その対応に追われる彩佳は、なかなかタバコを手に取る機会を持てないまま、せわしく時間が過ぎていった。  結局、この日は31本のタバコを吸ってしまった。それでも本人としては、いつもの半分に減らしたことで大満足である。
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