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――八月十一日、赤口。  その日は夏らしくも、涼しさの感じられる日だった。普段過ごしている都心と異なり、そこが避暑地であったからに他ならないだろう。茹だるような熱気やゴミゴミとした喧騒のない、静かで澄んだ空気が立ち込め、夏でも夜は冷え込む場所。  僕は大学のサークルメンバーと、埼玉県秩父市山中のコテージを訪れていた。夜中には、大型台風が接近するにも関わらずだ。外で活動するわけではないし、着いてしまえばどうとにもなるという多数決の判断である。  そこは本当に山の中で、映画でありそうな殺人やホラー案件が起きそうな場所だった。特に小屋に備え付けられた発電機なんかはまさに、そんな雰囲気を助長させてくるところ。  見渡す限りの森林と未舗装に近い荒れた道、街灯は勿論無し。車で来たわけだが、山道にはガードレールすら無かったから、夜の運転は危険だろう。  日暮れ前に到着した僕らは荷解きを行い、夕食作りと清掃を分担して行った。で、翌日には本格的な活動が行われる予定だったのだが……朝になり、それは難しくなった。なぜなら―― 「どうして……死んで。いや、これ……どう見ても殺され――」 「いやぁっ! ウソ……な、なんで真紘(まひろ)君がこんな……」  施錠された扉を壊して押し入った部屋に響く、男女の挙措(きょそ)を失った声。  それは、明かりをつけた直後のこと。頭部に斧が突き立てられた三年の加藤真紘の姿があったのだ。
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