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「あの……一ついいすか? 加藤君の下の部屋って、恵那さんとみのりんすよね。  何か、変な物音聞こえたりしなかったんすか?」 「たしかに……昨日、わりと音してましたよね」  僕は昨日の出来事を思い返して言った。  一階は女子、二階は男子の計七部屋を使用しているのだが、田嶋と川田だけが相部屋となっていて、その上にちょうど加藤の部屋があるのだ。  それは、呑み会が始まる前のこと。僕と三井が配膳していると、部屋から悲鳴が聞こえた。川田らの部屋のようで、駆けつけてみると川田と田嶋が入り口で怯えており、それを遠目に窺う城咲が立ち止まっていたのだ。  聞けば、部屋に大きな蜘蛛が出たと言う。虫系が苦手でない僕は、見つけた蜘蛛を窓から投げてその場を落ち着かせた。そして田嶋から、よく掴めるよね、という引き気味のお礼を言われた直後、今度は真上の部屋でドタドタと走る音や激しくぶつかるような物音が聞こえたのである。  何事かと、僕らは様子を見に行った。するとびっくり、加藤もまた変な虫が出て肝を潰したのだと言う。驚いてペットボトルで叩いた音だろうと、彼は苦笑していた。  筋肉質な彼は、その図体に似合わず大の虫嫌いだったのだ。もし他にも虫がいたら大変だと、その場であわてふためきスーツケースを閉める程に。
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