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「――ハァ、ハァ、息も白いし寒いな……」
あたいと勇者が戦った場所の扉の奥、そこは長い廊下で紅い絨毯、壁には金の壁掛けとキャンドルそして天井にはシャンデリアとこれはすべて魔王ルモール様の趣味だろう。その先は一本道。
「勇者め……勇者……」
いま思い返せば、勇者アヴエロとの最初の出会いは魔王様による最初の命令で癒しの森で襲いに行った時だった。
「――いや〜、今日も、よい天気ですね〜」
「ガァアアッ」
「うわっ、な、なんだ……け、獣……いや魔族だっ!」
勇者が日光を浴びてるところに襲いかかったのは伸縮自在の爪が自慢のあたい。紙一重で避けるなんて、どうやら逃げ足は早いようだ。地面に両手を付いて獣のように構える。
「あたいは魔王様の配下ネモネア、勇者の命を喰らいにきた」
「まっ、魔王の配下っ、勇者の命をですかっ!」
眼鏡をかけた一見頼りなく弱そうな奴が勇者だとはこの時とても思えなかった。慌てながら剣を構えると、爪と剣のぶつかり合う音が癒しの森に響きだす。
「――うわぁっ、背中がぁぁぁっ!」
開始早々、剣に慣ていないと動きで見極めてフェイクを入れた爪による攻撃が勇者の背中に爪痕を残す。すかさず反撃が来ると備えたら、ジタバタとする勇者。
何だこの歯ごたえの無さはたかが一撃で、とあたいはやれやれと呆れ果てた。
「そんなに痛いのかい、勇者」
「こ、こんなに、痛い……なんて……」
「涙目じゃないか、こんな奴が魔王様を倒す勇者か、話にならないね」
目の前に敵がいるというのに背中ばかりを気にして、真面目に戦うのもバカバカしい……というか弱すぎて腹も立ってきた。
「……あまいんだよ何もかもが、あんたじゃあ魔王様は倒せない、あたいが生き抜いた魔性の森でも即死だよ……」
「ま、魔性の……森?」
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