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勇者の言葉にあたいは思わず驚いて声が漏れた。でも勇者の表情はなんか哀しそう、あたいを見た時みたいに。
「なに……」
「最初は純粋でも環境によって汚れた人間は、欲に溺れ人を陥れたり、子どもを容赦なく売りさばいたり捨てたりもする……」
「分かっていて人間のために世界を救う勇者になる……それを愚かというのだ」
魔王様の言葉が入ってくるたびにあたいは暗くて哀しくて、絶望の未来の世界を感じさせられた。耐えきれなくて壁際に塞ぎ込むしまつ。
「愚か者? だから諦めて“人間を滅ぼせ”と言うのでしょう」
「そうだ、全ての人間を滅ぼして我が理想の世界に手を貸すのだ勇者っ!」
「断るっ!」
間もおかず断る勇者の強い意志の声が塞ぎ込んでるあたいにも届く。
「くっくっく、やはりか」
「そうやって理屈を並べて、けっきょく傷つくのは何時も……子どもたちじゃないか!」
勇者の手は拳となって震えてる。伝わってくる必死な思いに仲間たちも立ち上がる。
「力があるなら、今にも空腹で死にそうな子どもたちを救ったらどうですかっ!」
「馬鹿らしい、話にならん!」
立ち直った勇者たちと魔王様の激しい攻防はまた城を揺しだす。どちらかが言葉を交わせば全て否定する。この2人は本当に光と闇そのものなんだとあたいは思わずにいられない。
「弱者は枷になっても糧にならん、特にガキはな」
挑発のような言葉にも勇者は冷静だった。
「……そんな魔王が、どうしてネモネアを仲間に」
「ネモネア、あの口だけで貴様も葬れなかった役立たずか」
口だけ、その、とおりだ。
魔王様にとってあたいは……あたいはただの駒、わかってた。
わかってたのに、すごく悲しくなった。
戦いも見る気をなくし壁に背もたれし頭が下がって、もう真っ白。ただ、悔しくて涙が出る。
「魔性の森に危険な獣がいると風のうわさで聞いてな、使えるかと思ったまでの事。所詮はただのガセだったがな」
「魔王……さま……ううっ」
スカウトされた時を思い出す。魔性の森で現れた魔王様を見つけてあたいは襲いかかったが一撃でやられた。
「――ぐうっ、な、何者だ」
「ワシは魔王ルモールこの世界の天になる者」
「ま、魔王……殺せ、あたいはあんたに負けた、この世は弱肉強食がルール」
「ふっふっふっ、確かにその通りだが……お前は弱者でなく強者」
「え?」
「負けたのも仕方ない、何故ならわしが強すぎる“最強者”なのだからな」
「あたいは……強者……」
あのとき両親に捨てられたあたいが初めて誰か他人に選ばれた気がした。そして魔王様に尽くす事があたいの生まれてきた意味なんだと思ってた、のに。
「魔王っ、ネモネアは親に捨てられ孤独に生きるしかなかった人、そんな人の傷をえぐるようなあなたを、私は許さないっ!」
「そ奴らは抉られるために生まれたのだから仕方ない。それが弱者の生きる道なのだっ!」
傷ついたのに、あたいはいつの間にか勇者を目で追っていた。
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