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勇者アヴエロと魔王ルモールの戦いは、魔王が優勢に立つも勇者と3人の仲間との連携で盛り返す。その戦いを扉の隅っこで隠れて観ているあたい。繰り返される幾度と繰り返される攻防もついに決着の時がおとずれようとしていた。
「魔王、くっ」
「はぁ、はぁ、くっくっく遂に貴様の最後だな勇者」
「あなたも膝が着いてますが、魔王」
「ちぃいっ……あれは」
このとき勇者を観ていたあたいは、強い視線を感じた。
「おぉお、ネモネアよ」
「うっ、ネモネア、どうしてここに」
「魔、王様……」
「さぁネモネアよ、こ奴らを殺すのだ!」
魔王様の威圧は半端なく、隠れて真実を知ったいま自分の気持ちも整理がつかない。
「ダメだっ、ネモネアッ、魔王は君を道具としてしかみていません!」
「ネモネアよ、勇者達を殺せっ!」
勇者、でもあたいは魔王様の配下。迷い歯を食いしばる。一歩、ニ歩とあたいはどうしてか勇者を通り越して魔王様の元へ歩いてた。
「魔王様……しかしあたいは魔王様の役立たず……」
「聞いていたのかネモネアよ」
「……はい、すべて」
「言ったことは事実、しかしよく後ろを見てみろ。奴らを片付ければネモネア、お前は強者なのだ」
「あたいは……強者……」
後ろには、魔王と戦い傷つき立つのもままならない勇者と仲間たち。そう、そもそも奴らを倒すことが出来なかっから捨てられたんだ。だからここでいま倒せばあたいは元の魔王様の配下に……。
ドクンッ。
鼓動がなって思わず左手を胸に触れる。この鼓動はなんだろう。勇者たちを倒そうとすると鳴る、苦しいくらいに。
「ネモネア……」
「ゆう、しゃ」
「ネモネア、君がいま悩んでること……」
迷い苦しんでいるあたいに声が、勇者だ。目を合わすと傷だらけで辛いはずなのに彼は笑顔。
「あなたが前に話してくれたようにルールや掟は大事です。でも、だからと言って君が我慢をすることはないんです。自身の正直な気持ちに触れてみてください」
「あたいの……正直な……気持ち……」
勇者を殺すかもしれないってのに。自分の気持ちに素直にあたいはゆっくりと勇者に近づいた。
「そうだっ、勇者達を殺せっ、皆殺せっ!」
右手を上げる。
「ネモネア……」
「殺れぇぇぇっ!」
緑の光。
「これはっ……ありがとうネモネア」
「勇者の肩に、回復の魔法だとっ、ネモネアッ、裏切ったなぁっ!」
「魔王様……これがあたいの、気持ち……です」
「こんの、役立たずがああぁぁぁっ!」
グサッ、と剣の音。
「魔王の相手は私です」
「ぐふぁあっ、ぐっ、勇者」
「終わりです、魔王ルモール」
「おのれ、ぐぁあああぁぁぁ〜っ」
魔王の叫びが城中に響く。無念でなく怨念めいた凄まじい勇者たちに対する執念。
世界を自分の物にしようとした魔王ルモールは勇者アヴエロたちに倒された。それと同時に崩壊する魔王の城、これで世界は救われた。
そしてあたいはまた独りになってしまった……。
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