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「魔界では弱肉強食がルールなんだ、だからあんたに負けを認めたあたいは殺されなきゃならない」
「ここは魔界ではありません」
「……御託はいいんだよ、あんたにその気がないって言うなら、後ろを振り向いた隙に襲いかかって、殺すかもよ」
「……それも無理でしょう。魔王の力が注がれる源の翼と角が無くなって力が思うように入らないようにみえますから」
「くっ……ちくしょう、ちく……しょう」
「それにねネモネア、私は殺すために勇者になったんじゃない。世界を魔物だらけにして子どもたちの未来を奪おうとする魔王を倒すために勇者になったんです」
魔王倒す、最初は弱かったのに……勇者はどうしてこんなに強くなったんだ。それと、言葉が頭をよぎる……いや、なにか変、声が深くふかく心にすとん、と響くような。
「……わかってくれたみたいですね」
「この気持ちは……なんなんだ、いったい……」
バサッ、勇者は背中に付けた紅いマントを突然と外して迷いなくあたいに被せてくれた。
「なっ、なによっ」
「身体が震えてます、魔王の力が無くなって寒く感じるのでしょう、だから」
「べ、別に寒くなんて……」
嘘つく抵抗をしたけど、ホントは心底震えてる。
「ネモネア、最初に君と出会ったとき君の過去知った、そして2度目に戦ったとき話した私の言葉をもう一度思い出して、人を傷付けない魔族の女性としてどうか生きてほしい」
わかったような事を言い残して勇者とその仲間は魔王様の居る最後の扉を開いて歩いていった。なにさ、偉そうに……。
ドクンッ、そのとき胸が鳴った。
なんだろういったい、これは寒さからくるもんじゃない、もっとこう奥から震えるような熱いような。
毒、か。
勇者は剣に毒を塗っていた。なんてそんなことをする奴じゃないのは知っている。
すると、勇者のことを考えるとどうしてか胸が楽になった気がした。
「なんなんだろう、これは……勇者アヴエロ……魔王様……」
ただその場で立っているだけではどんどん寒くなっていく。裸足のため雪で冷い……でもそれだけなのだろうか。どうせだ、勇者と魔王様の戦いも気にはなもなるしと向かって様子を見ることにした。マントを握りしめながら……。
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