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「そうっ、あたいが育った魔性の森は魔界にある弱肉強食がルールの森。弱いものはたとえガキでも食い殺されるし、魔物を超えた魔獣がわんさかと住み着いている。そんな世界で、親に捨てられたあたいは死物狂いで生き残ってきた」
それにより、あたいが一睨みすれば獣が去るほど大したことのない癒しの森。
「容赦のないその世界であたいは手段を選ばずに生き残り、遂に森のボスになったんだ。わかるか腰抜け、あんたのような弱い見せかけの勇者にはなっ、何も助けられないっ、何も救えないだよっ!」
痛いのだろう背中を左手で庇いながら、あたいの爪を必死に防ぎ続ける勇者。
「うあっ……ぎゃあああ!」
次は右脚に爪の攻撃を受ける。
「もう、終わりだ!」
「……ハァ、ハァ、親に」
また戯言か、もう無視して攻撃の手を緩めない。ところが、おかしい、最初の時より剣さばきが良くなってるように感じる。急な成長にあたいは思わず距離を取る。
間違いない、勇者は弱々しい態度とは裏腹に、戦うたびに強くなる何かがあると直感した。
「ハァ……親に捨てられたって……」
「ベラベラと、そうだ、小さい子供の頃になっ!」
その言葉を聞いたとき、勇者の雰囲気が変わった気がした。
「君は……捨て子なんですね……」
「何を言ってる、腰抜けめぇーっ!」
あたいの勢いを乗せた猛爪を剣で受け止められ、そのまま押し切ろうにもビクともしない。
「……やめるんだ、いますぐ魔王の配下をやめるんだっ!」
「なっ、なんだとぉぉぉっ!」
虫唾が走った。あたいを拾ってくれた魔王様、その敵になぜそんな事を言われなければならないのか頭に血が上り殺ると決めた。
しかし、まるで別人のように剣さばきが短期間で強くなっている勇者に中々攻撃が当たらない。
「くそっ、なぜっ、こんな奴に!」
「君は、間違ってる」
このままではと、あたいは一撃を込めて飛び込んだ。
「ああぁぁっ!」
横一閃に自慢の右手の爪は切られてしまう。
この戦闘で勇者は突然あたいの強さを超えるほど急成長をした。たったこれだけの戦闘で、これが勇者の力なのかと脅威に感じた瞬間だった……。
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