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「くっ、バカな、こんな奴に、魔性の森のボスのあたいを」
「ハァ……ハァ、このままじゃ、魔王に手を貸してはいずれ君を捨てた両親と同じになってしまう……それはいけないっ、やめるんだネモネアッ!」
「なんだと、親と……何故あたいにそんな事を……くっそっ、次は勇者を殺ってみせるっ、絶対にっ!」
「ネモネアまてっ、行っちゃだめだっ、ネモネアァーッ!」
勇者は背中の痛みをこらえてあたいを否定した。あたいの人生は間違っていると。
生きとし生けるもの全てに強者と弱者があり、負けたものは弱者として強者に食われる以外にはない。それを知っているからこそあたいは勇者より強いはずだったのに……。
魔王様に任された初陣で敗れてしまったのは屈辱的。あたいの何が間違ってるっていうんだ。ただ魔界で必死に生きてきたあたいが……。
「魔王ルモール様……」
「おー、我が配下のネモネア……何か言いたいことがあるようだな」
「……はい、その……勇者に負け、ました」
魔王様は背を向け夜空を眺めていた。きっとあたいには想像も出来ないような事を考えているのだろう。
「そうか、あの魔性の森の支配者であるネモネアを倒すとは……してその眼、どうするつもりだ」
決まっている。
「ルモール様、恥を覚悟でお願いします。あたいに力をください、勇者を倒せるだけの力を!」
「ほう、よほど誇りを傷つけられたようじゃな。感じるぞ、強い闘争心を。それでよい」
全ては期待に答えるため、そしてあたいをわかったように口を開く勇者を倒すために。
「――ルモール様、こ、これは!」
「さぁネモネアよ、この魔界の邪恐竜2匹を倒し見事、我の期待に応えてみせるがよい!」
魔界の邪恐竜とは、魔物を超える魔獣を更に超越た化け物で近づかないのが普通で戦えばほとんどの確率で命を落とすだろう怪物が2匹。
だけど負けた自分が悪し、魔性の森で生きてきたあたいには死ぬ覚悟はとうにできている。ここで死ねば化け物の餌、ただそれだけ……。
あれでよく生き残ったと思う。終わったときは死にかけで頭半分は食いちぎられて頭蓋も晒しただろう、左腕も無かった。
でもその後、魔王様に試練を超えたということでお褒めの言葉と約束の強大な魔力により再生、力ももらった。
「素晴らしいっ、すばらしいぞネモネア。お前はいまや魔界の戦士となったのだ」
「……今なら、世界を血に染められる気がします」
こうして禍々しい両翼と魔力を得たあたいは、魔王様の誓いを胸に秘め勇者に再び挑むことに……。
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