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終わりだと思った。
いや終わりだと思いこんでいただけで、毒煙の先に勇者は立ってあたいを見上げている。
「どういうことだ……」
「あなたの毒の雷に私の雷を混ぜて、同じ属性の雷を浴びた仲間の杖に避雷針になってもらいました……“ウイング”!」
翼の魔法で空中に羽ばたく。あたいが勇者ばかりに気がいきすぎたせいだ。
「ちいっ、ヴェノム・サンダーッ!」
「無駄です!」
やはり混ぜ合わさった雷は杖に向かってしまう。
「避雷針……どうやらあたいのこの新たな魔爪で殺されたいらしいな」
魔王様の翼と紫色で不気味に強化された魔爪で勇者に仕掛けた。勇者も剣で払い続けていく。
「また防戦、なめやがってっ」
しかしあたいが攻めてもせめても避けられる。剣の腕も手慣れていて次第に焦っていく。勇者には動きがわかってきたのか笑みがこぼれる。
「くっ、どうして」
「……君は、空中の戦いになれていないからです」
勇者には気づかれていたようだ。でも、
「なぜ、あたいにわざわざそんなことを……まさかまた説得でもしようってんじゃ……」
「泣いていたんじゃないですか?」
「なに……」
「親に捨てられた時の幼い君は、泣いていたはずです」
「また話……」
『――お父ちゃんお母ちゃんっ、あたい何でも言うこときくからここからだしてよぉぉ――』
「孤独、だったでしょう……」
「ううぅっ……ハァハァ……なんだ」
頭を抱えながら、よぎったあれはあのとき両親に、魔性の森に捨てられたあたい。いつの間にか大量に汗もかきだした。
「ネモネア」
「よるなっ……何でお前は……おまえはぁぁぁーっ!」
心を狂わせる存在、勇者。奴の言葉におかしくなるあたいは激高して、言葉を忘れたくてなりふり構わず突撃した。
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