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今日もカノンは裏庭へとやって来ていた。
そんなカノンの前髪は、バッサリと切られて目元がはっきりと見えている。
随分と視界は良くなったけれど、長年を共にした前髪がないのは何だかスースーして落ち着かない。
ケインは前髪だけでなく、全体的に髪型を整えてくれた。
仕上がりを見て、
「やっぱり、アタシの目に狂いはなかったわ」
そう満足げに頷いていたけれど、本当に似合っているだろうか。変じゃないだろうか。
今回の散髪で、これまで半分以上隠れていたカノンの素顔を初めてまともに見ることになった侍女たちは
皆驚いたような顔をした後、「勿体無い」「もっと早く切ればよかったのに」と口々に言っていた。
(まだ少し慣れないけど、でも……)
これを機に、変わっていこう。
「ああ、もう来てたのか……」
足音が近づいてくと共に、聞こえるのはギルバートの声。
カノンが振り返る。
その姿を目にしたギルバートは、驚きに目を見開いた。
カノンの前にしゃがみこみ、その露わになった素顔を見つめる。
「君は……」
熱に浮かされたかのように呟いて、カノンへそっと手を伸ばすギルバート。
しかしその手が頬に触れようとする寸前のところで、ハッと気づいて手を下ろした。
(ギルバート様、何だか様子が……)
いつもと様子の違って見えるギルバートに、緊張するカノン。
しばし無言の中、2人は見つめ合っていた。
「……髪、切ったんだな」
その均衡を破ったのはギルバートだった。
カノンは頷く。
そんなカノンを、ギルバートが再びじっと見つめる。
「可愛い」
それはごく自然に溢れた言葉のようだった。
言われた言葉の意味を理解すると、カノンの顔がボンッと赤く染まる。
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