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このラシエル国は、竜と人の姿を併せ持つ「竜人」という種族と、人間が共存している。
そしてラシエル国は、別名「竜王国」とも呼ばれている。
その名の通り、この国の王は竜人だ。そしてそれに連なる貴族たちもまた全てが竜人である。
竜人は人間とは比べ物にならない程、強大な力を持っている。
そのために、このラシエル国は大陸一の広大な土地と豊かさを持って繁栄し続けている。
この国に住む人間は、竜人のような高い地位を持たない。
その代わり人間は、強力な竜人たちに護られて、飢餓や侵略の恐怖も知らず平和に生きていくことができるのだ。
休む暇もなく働き続け、ようやっと今日の分の仕事を終えたカノンは、疲れた身体を引き摺るようにして礼拝堂に向かう。
時間に遅れでもしたら、次はどんな折檻を受けるか分からない。
礼拝堂の中に入ると、神官服を着た女たちが両膝をついた体勢でずらりと並んでいる。
その中には、カノンに仕事を押し付けたあの2人もいた。
「みて、来たわよ恥晒しが」
「よく平気な顔してこの神聖な場所に来れるものだわ」
どこからともなく聞こえる囁き声。
周囲からの冷笑を浴びながらも、カノンは列に並んで膝をついた。
すると間もなく奥の扉が開いて、神官長とその後に続いて1人の女が祭壇に上がる。
その瞬間、カノンを含む全ての女たちが一斉に胸の前で両手を組む。
そして光輝くような金色の刺繍が施された、純白の神官服に身を包んだその女―――ルーシーが告げた。
「さあ、今日も偉大なる竜の方々に祈りを捧げましょう」
ルーシーが歌い始める。そのどこまでも伸びるように高く美しい歌声に続くように、重ねて女たちが歌い出す。
合唱が響き渡るその中でただ1人、カノンは固く唇を引き結んだままだった。
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