3642人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
現状
「美華、キリのいいところで帰るよ」
ホテルの一室のようなここは‘J川俣学園’副理事長室だ。
「20分くらいかかるわ」
「手伝おうか?」
「この分野の素人に手伝ってもらうような内容ではないわよ」
「そうだったね」
大きなデスクを離れた、この部屋の主、川俣真は学園創設者一族に生まれ、この学園卒業後、副理事長として学園の経営と運営にあたっている。
そして彼は私、星乃姫美華の婚約者でもある。真は美華と呼ぶけれど、姫美華と呼ぶ人もいれば、学園内には極少数‘姫美華さま’と呼ぶ人もいる。
私が20歳の時に真と婚約して以来、この部屋で過ごすことも多くなった。
心理学専攻4回生になった私の受講講義数は激減したけれど、課題などは相変わらずここで済ませる。
デスクを離れてから、窓を閉め、ブラインドを下ろし、使っていたカップをゆっくりと片付けた真は私を少しも急かすことなく、ソファーに座ってパソコンのキーボードを叩く私の隣に深く腰掛け、私の腰に腕を回した。
「この時間があと数ヶ月で終わるのは寂しいね、美華」
最初のコメントを投稿しよう!