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「あ、真。ごめんね、お仕事誰かと一緒だった?」
‘え?ううん、大丈夫だよ。美華、頑張って’
「うん。今週も武井先生じゃなくて、城田先生なの」
‘城田助教授の講義は一番好きな講義だったから、いいんじゃないか?’
「うん、担当してくださるかもって」
‘それもいいね。じゃあ、頑張って’
「うん」
誰かと一緒?に、ううん…この時点で私はブラインドに背を向け、窓枠の下に座り込んだ。彼の姿を見ていなければ、全く違和感のないいつもの会話が永遠に続けられるのに…
私と同じようにしゃがんで壁にもたれた城田先生は
「ポジティブとネガティブの融合」
そう呟く。
「…何ですか、それ?」
「デキる大人の条件」
「はい…?」
「何でもポジティブが良いのは、ほんの小さい子どもの時だけ。デキる人を突き動かしている源には、必ず不安というネガティブ要素ある。例えば…不安だから何度も確認をすること。明日のプレゼンや会議などに備え入念に準備をするとかね。遅刻しないか不安だから早めに家を出る、なんていうのが簡単な例だね」
「はい」
「何事もポジティブ思考の方が良いに決まっている、というのは大人の社会生活では危険だよ。何とかなる、気にしない、大丈夫だろう…」
「楽観的ですね?」
「そうだね。遊びなら良くても、そればっかりでは生きていけないよね、残念ながら」
「はい」
「星乃さんは昨年の講義の様子からも、この時期の卒論準備の進め方からも、俺の知り得る言動からポジティブとネガティブの融合であって、決してポジティブなだけではない。それが俺の見解」
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