ゲインロス効果

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並んでしゃがんでいると、膝の高さの違いから足の長さを見せつけられる…その先生の膝を見ながら 「先生は人の何もかもを心理学的考察に当てはめて生活されているのですか?」 と聞いてみた。すると 「まさか。どちらかと言えば、逆。普段はイチイチ考察、分析、見解なんてものと同居していたら人と付き合っていけない」 と笑ったあとで私を見た。 「今もモヤッとしてる」 「モヤッ…?」 「そう。星乃さんは彼に俺と二人きりの状況を伝えた…なのに…彼は何て言った?」 「いいんじゃない?頑張って…と」 「俺ならあり得ない反応だけど、彼を分析する気にはならないね。ただ武井教授の半分の年齢の男と自分の婚約者が二人きりの状況を許せることが分からないし、俺が男に見えていないのかとモヤッとしてる」 「意外なモヤッ…です。先生はおいくつですか?」 「30。星乃さんは22?」 「まだですけど、はい。それで…意味のある行動を生み出せたのでしょうか?」 「今すぐでなくてもね、きっと。だから今すぐ深く考えることはない。ただポジティブとネガティブの融合がデキる大人の条件で、星乃さんはそれに当てはまる、今日はそれだけ覚えておくといいよ」 その言葉を耳に家に帰ると、自分の車でドライブに出掛ける。Hoshinoで取り扱うオレンジ色のイタリア車が私の愛車。そのハンドルを握りながら、真がポジティブなのかもしれないという考えが浮かぶ。 落日の最後の光を見送った直後に降り始めた雨は、すぐにオレンジ色のボディを叩きつける。その激しい勢いと水量にすべてがリセットされる気がした。
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