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「井上さんっていう真の同級生で…先月、中学の英語の先生として来られたって一度挨拶だけした人」
「これはダメだろ」
兄は父の持つ封筒が空かどうかを確かめながら語尾を強める。
「同級生ということは学園生だったんだね?」
「うん」
「井上さん…知らないわね…」
父と母はどこの家の方かと顔を見合せている。
「お父様は頭取だと聞いたわ」
「銀行…ああ、東京第二だな」
父の声を聞きながら、私は真に腹が立つのか井上さんに腹が立つのか…悲しいのか悔しいのか…ぐちゃぐちゃの感情が胸にも頭にも渦巻くのを感じる。
「あり得ない…」
ぽつんと出た言葉はその一言だった。どこかで疑いつつも信じていたのだから…この現実はあり得ない。父が口を開こうとしたとき、珍しく家の固定電話が鳴ったので4人が首だけをそちらへ向けるという、誰もが固定電話に慣れていない行動に少し笑いそうになり、一番に動いたのは兄だった。
「はい、星乃です…川俣さん…?はい、義美です…はい、おります。お待ち下さい」
義美は兄の名前…川俣さんってどの?おります、は…父?私?
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