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「父さん、真くんのお父様から…」
「あなた…私達も聞かせてもらっていいかしら?何だか息苦しいわ…」
私が母を隣に座らせると母は精一杯微笑んで私の手を握る。そのいびつな笑顔を見た父は
「家族4人で聞く」
そう言って受話器を取ると、ひとつのボタンを押した。
「お待たせ致しました、川俣さん。おはようございます」
‘おはようございます。休日の朝に申し訳ありません’
「いえ、少々ご無沙汰しておりますが、皆様おかわりございませんか?」
‘はい、ありがとうございます。あの…星乃さん、突然にすみませんが…’
「はい」
母の指がピクッと動いたあと、私の手の甲を撫でようと親指が動く。
「大丈夫だよ、お母さん」
そう母に囁いた根拠はないけれど、私は悪いことをしていないし、父がとても落ち着いているので、私は写真を見た時よりも少しは冷静でいられた。
‘姫美華さんのことで、失礼ながらお伺いしたいことがございまして’
「はい」
‘姫美華さんが、ネオや学園助教授の城田と親しく交際されているという話を耳にしまして…外から聞こえてくるものですから…’
「川俣さんのお耳にそのようなことが?」
‘そうなんです。姫美華さんのことは長い間存じ上げているので、信じがたいギャップに驚いてしまって’
「真くんは何と言ってますか?」
信じがたいギャップ…ゲインロス効果でしょうね。人の心理状況において、プラスとマイナスの変化量が大きいほど、人の心に影響を与える度合いが大きくなる効果のこと。つまり相手に対して、最初にマイナスの印象を与え、その後プラスの印象を与えた方がより良い好印象を抱かせることができる。
今はその反対のことが起こっているのだ。外から聞こえた情報がマイナスに大きく働き、ネオや城田先生が何と言おうが私のマイナスイメージは植え付けられたままで、この電話に繋がっている。
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