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井上三咲が着任してからのことをゆっくりと思い起こす。
私の知り得ぬところで起こったことがほとんどだけれど、知っていることを順序だてて丁寧に思い起こし、それに付随する可能性を考えてみる。
井上三咲が私のことを知らないと言ったことからまず嘘かもしれない。彼女が真の同級生ということは、私と真が付き合い始めた時、彼女は大学に在学中だったのだから。
高校2年の私と大学3回生の真が交際を始めたことは、彼が川俣であることから、わりと多くの人に知られていた。ましてやその期間に真が二股交際していたというのだから、井上三咲は知っていたと考えるのが自然だろう。
その二股交際について、ネオは口を滑らせた風に私に謝っていたけれど、今から思うとわざとらしかったかもしれない。彼の精一杯の忠告だった?
その後も私は真と会っていたので、ネオの忠告もぼんやりとしか効果がなかったけれど、あの忠告のおかげで体を重ねることはなかった。
ぼんやりとしていたものがクリアになったのは真と井上三咲の廊下での密談を見つけ、電話で真が嘘を言った時だ。
あの時、城田先生は‘意味のあるものを生み出す行動’と言った。確かに明らかな嘘を聞いてからの私の気持ちを考えると先生の言う通りだけれど…あそこで二人が話をしていることを見つけたのは先生だ。
なぜ、副理事長室でなく二人があそこにいた?井上三咲が仕向けた?先生も知っていた?どういう関係?あの写真はどう説明する?
頭をフル回転させていると、泣くことも落ち込むこともない。私は頭のフル回転をパワーあるエンジンのように使い、月曜日の夕方には学園内のある部屋のドアをノックした。クリアにしてみせようじゃないの。このままじゃ気分が悪いわ。
「はい」
「星乃姫美華です」
「どうぞ」
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