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 逆に四課一係の係長になれば栄転だ、それに内勤ならば少なくとも今までよりは落ち着いた日々を送ることができる。だが、本当にそれでいいのだろうかという疑念は(くすぶ)り続けていた。  ――いいご身分だと思ってよ。こっちの弱み握って本名のまま(せい)労連(ろうれん)に潜入させてるくせに、てめえらは偽名使って安全地帯でぬくぬくしたんだからな。  不意に定期報告のときにエルヴィスに言われたことが蘇った。  ふっと笑いが漏れた。そうだ、自分は国のためだと偉そうなことを言って、エルヴィスにあれほど危険なことをさせた。そんな自分に内勤を希望する資格があるわけがない。そんなことをエルヴィスが許すわけがない。だが、それでもヒューゴの仇の元で働くと思うと、簡単には結論を出せなかった。  息を吐きだし、気分を変えようとテレビのリモコンを押した。 『マルドゥース危機を振り返る』  明るくなったブラウン管の真ん中で、その白く縁どられた赤字は踊っていた。
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