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今度は女の声が響いた。
「何言ってんだよっ、なあっ? 何言ってんだよっ、お前えっ」
絶叫しながらテレビを両手で持ち、筐体を必死に揺さぶった。
――戦争を避けられたんだから、結果を見ればそれでよかったと思いますね。
また無責任な言葉がテレビから吐き出された。
「ふざけんなっ、ふざけんなよっ、お前らが一滴だって血ぃ流したのかよっ」
憤りのままに叫び、テレビを揺さぶり続けた。
多少の犠牲、その言葉を当たり前のように使っている人間を本気で理解できなかった。確かに対岸から見ているだけの者にとってはそうだろう。この国には一億人の人間が住んでいる、そのうち僅か数人が命を落としただけで他の人間が戦争の危機から救われる。確かに、多少の犠牲だ。
だが、犠牲になった人間にとってはそれが全てだったのだ。心も命も、あるはずだった未来も何もかもを奪いつくされた。この先に経験できるはずだった幸福な出来事も全てを差し出したのだ。
――まあ、これからはこういうことがないようにしてほしいなって思いますね。
「ふざけんなあっ」
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