桜の花というものは

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「桜は、散るから美しいんです」  痩せ細った枝のような腕。  畳に敷かれた布団は、いくつもの縫い目がある。  縁側から差し込む、春のうららかな日差し。  座布団に座り、眩しそうに目を細める。  あなたはそう言って、幼かった私に、散ってしまう桜を嫌う私に桜の素晴らしさを語った。 「なぜ、命の一部である花を散らすことが美しいのですか?」 「ふふっ。なぜでしょうね。それが日本人の性だから、でしょうかね」 「なら、なぜ私たちは命を散らすことを誇りに思うのですか」  あなたは優しく目元に皺を寄せた。 「いいえ。命を散らすことを誇りに思うのではありません。命を散らすことにより、次に繋げることができる。それが、私たちは嬉しいのです」 「なぜ、散らなければ次に繋げられないのですか」  とうとうあなたは困り顔になった。  矢継ぎ早に続く質問。
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