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春。先生の家の縁側から見える桜は、すでに大部分が散っていた。
戦争によってあたりのほとんどが焼けてしまったが、奇跡的に残った木だ。
「先生。花が散ることで、それが肥になるように、命を散らすことで、勝利への道ができるから……ですか?」
私は腕を組んだまま先生を見上げた。
先生は優しく私の頭を撫でる。
「それでは、まるで元から捨てるためにあったもののようですね」
「しかし、桜は毎年決められたように花を落とします。桜と人に関係があるというなら……」
「あなたの父君は、戦争に勝つために、捨て駒になるために戦いに行ったのですか?」
少しだけ、冷たい声だった。
私は慌てて首を振る。
「……やはり、戦争が身近にあるとそのように考えてしまうのですね」
「ご、ごめんなさい……」
「いいえ、あなたが悪いのではありませんよ。良い世界を作れない、我々が悪いのです」
「で、ですか! 先生は身寄りのなくなった私をこうして育ててくださってるじゃないですか! どうして先生が悪くなるのですか……?」
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