桜の花というものは

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 怒らせてしまった気がして、私は涙ながらに先生の腕を掴んだ。  そんな私に、先生は落ち着きなさいと言った。 「おいぼれの話、聞いてくれますか?」  私は、先ほどよりも激しく頷いた。またおいぼれなんかじゃありません、と付け加えた。  先生は、少し咳き込んでから話し出した。 「ときどき考えるのですよ。私は、次の人たちに何を残せるのだろう、と。戦う強さ、耐え忍ぶ強さ。そんなもの、いらない世界を作るために、何ができるだろう、とね」  ちょうちょが前を横切っていく。  私は一瞬そちらに気を取られそうになり、慌てて視線を戻した。 「私は弱いので、政治になど参加できません。化かしあいなど大の苦手ですし。日本全土に影響を与えるなんてできません」  そろそろお休みになった方が良いのでは、と考えたが、真剣な先生を遮ることはできなかった。 「そこで、思うのですよ。桜の木を植えてみようと。あと、あなたに私の知識を植え込んでみようと」 「わ、私の頭に先生を植えるのですか⁉︎」
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