桜の花というものは

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 先生は一瞬目を見開き、手を口元に添えてくすりと笑った。 「比喩ですよ。あなたに、私の夢を引き継いでもらおうと思ったのです」  「夢、ですか」  先生は桜に視線を向ける。 「次の世代のために、より良い環境を作り、散る。そんな精神を受け継いで、広がって、やがて世界中が平和になる、なんて、大層な夢です」  先生はにっこりと笑う。  私は、少しだけ飲み込みに時間がかかった。  その間に、先生はまた咳き込んだ。  私は慌ててその背中をさすった。 「今思ったのですが……」  先生は呟いた。 「散るから繋がるのではなく、散るまでに道を作るから繋がるのでは、と思いました」 「どういうことですか?」 「……」  また、先生の自分で考えろという合図の時間になった。
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