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「あの、時谷先生は今出掛けていますけど……」 「そうか」  中に入っていき、リビングの椅子に座った。 「空也の兄の海だ」 「お兄さん……」  よく似ている。  雰囲気や背格好も似ている。 「いつ帰ってくる」 「5時前には帰ってくると思います」  このぶっきらぼうな物の言い方もよく似ている。 「しばらく待たせてもらう。俺のことは気にしなくていい」  そう言って、ポケットから銀色の箱を取り出して、中から一本取り出すと口にくわえた。  煙草……。 「あの、すいません。私、煙草苦手なんですよ」  ライターを取り出す手が止まった。 「なら出ていけ」 「え?」  ライターを取り出して火を着けた。  吸い込んだ紫煙を吹きかけられた。  激しく咳き込んで、キッチンで水を飲む。  落ち着いて海さんの方を見ると、灰皿を要求する仕草を見せた。 「無いですよ」 「替わりの物を出せ」 「………」  この人……何様でしょう……。  仕方なくキッチン中を探し回って、変わりになりそうな物を探す。  見つけだした缶詰の中身を皿に移して、空き缶を洗って出した。
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