Prologue

1/2
61人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ

Prologue

 ちゅ、と口を近づけ短いキスをする。何度も繰り返された、日常の行為。 「……どうしてそんなに、嫌そうにするかな」  思わず呆れてそう聞いた僕に、彼はあからさまに顔をしかめた。 「……別に。おじさんとキスして、嬉しそうにしてる方が変でしょ」 「あ、そういうこと言う? 僕はまだ32なんだけど」 「おじさんじゃん」  嫌そうに手の甲で口を拭い、さっさと立ち去ろうとする少年。僕をおじさんと呼びつけた通り、確かに彼はまだ若く美しい。 「もう行くの?」とさりげなく尋ねると、「だってもう終わったし」と彼は素っ気なく答える。ずいぶんと淡白なことだと僕は思う。  こういうのは、お互いに楽しんでこそなのに。 「もっとこう、余韻とかさ」  ぶうぶう不満を言いながら、僕も急いで支度をする。もう十年以上も着た官服は、そう複雑な作りでもないので五秒もあれば身に纏える。  そうして追い付いた彼に、僕はふざけて思い切り抱き付いた。腰も腕も、僕のものより数段堅く逞しい。さすが将来有望な騎士として王宮に鳴り物入りしただけのことはある。そんな逞しい姿を愛しく思いながら、僕は目線よりだいぶ下にある頭をグリグリと撫でた。 「訓練、頑張ってね。陰ながら応援してるよ」  そう囁くと、耳がカッと真っ赤に染まった。こういうウブなところも僕は好ましいと思っている。 「何かあったら相談して。僕たち、番なんだから」  ニコ、と得意の人畜無害な笑みを向けた。すると彼ははく、と口を開きけれど何も言わずに歩を進めた。 「……もう行く!」 「うん。じゃあねー」  早足で去っていく少年に、僕はバイバイと手を振った。これから始まる仕事を前に、憂鬱と少しの名残惜しさを感じながら。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!