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王宮広報部の副部長ラウリスといえば、人畜無害の昼あんどんとして有名だ。誰にでも当り障りの無い態度、どんな相手の懐にも踏み込まず踏み込ませず、絶妙にちょうどよい距離を保つ態度とそのマイペースな仕事ぶりは、共に過ごす相手を安心させた。
そんな彼には目下、とても大きな秘密があった。
「見てください副部長。第一部隊ですよ!」
傍にいた女の子が、ラウリスにそう声をかける。ラウリスが顔を上げると、窓際には視察から帰ってきた第一部隊をひと目見ようと集まった女の子たちで溢れていた。
「……人気だねえ」
「そりゃあそうですよ!」
思わず呟いたラウリスに、窓の外を覗いていた女の子たちが振り返る。
「第一部隊といったら!貴族さまのなかでも特に優秀な方々を集めた、超・超優秀なエリート部隊なんですから!!」
「隊長さまが変わってから、更に評判が良くなりましたよねえ。この間は町で問題になってた盗賊団を、依頼された途端に捕まえたって」
「皆さま家柄も見目もよろしいし。それに城内で困ったことがあると颯爽と現れて、とても親切に対応してくれましたよねー」
「とくに今話題の新人、エゼオさま!」
エゼオの名前が出た瞬間、ラウリスの肩がピクリと動く。
しかし、特に表情には出さない。
「ああ、エゼオくん。去年入隊したばかりなのに、もうエース級の働きをしてるんだってね」
「そうなんですよ、副部長!
彼、剣も弓も上手で、しかもとってもかっこいいんです!」
「性格もとても紳士的で、王宮の二人に一人の女子が彼に惚れているって評判ですよ」
ちょうどそのとき、そのエゼオくんが部室の前を通ったらしい。女の子たちの黄色い声が響いた。そちらに目を向けると、なかには彼女らと同世代の文官の男の子たちの姿もあった。どうやら第一部隊のエース、エゼオくんは男女問わず人気と人望があるらしい。
「ふう」とラウリスは書類仕事に疲れたふうを装って背凭れに倒れかかる。
まさか言えないだろう。
その、王宮で人気の騎士エゼオくんが、十三も歳の離れた冴えない広報部の副部長と番だなんて。
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