大江戸ガーデニング戦争

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「いっそもっと古臭くしてみるか」  冗談とも諦めとも取れる甚八のつぶやきだったが、お春が口を開いた。 「そう言えば六義園をつくった柳沢様は昔の歌をそのまま庭にしたのよね?だったらもっと昔の歌を庭にしてみても良いんじゃない?」 「昔の歌?」 「そう百人一首とか、誰か偉いご隠居さんとかに聞いてさ…」  寄席で聞いた千早振るが尾を引いているのか、パッと手を叩いて飛び上がるお春を見て頭を抱えた。 「お春…寄席の演目じゃないんだから…待てよ?百人一首にも桜を詠んだ歌があったよな?」 「だから桜は駄目だって」  ひとついい考えが浮かんだかと思えば、同じ数だけの問題点ばかり浮き彫りとなって、堂々めぐりを繰り返していた時、店先から声が聞こえてきた。 「甚八!甚八はおらぬか!」  留守居役の東浦頭(とうらす)伊庭(いばん)であった、作庭図が遅いとの催促だろうか、その割に重役であるはずの留守居役自ら店に出向くとは、いったい何事であろうか? 「東浦頭様、こんな所に如何(いかが)なされた?」 「うむ、ちと面倒な事になってな、悪いが上がらせてもらうぞ」  東浦頭が甚八に促され奥の座敷を開けると、作庭図やら和歌集やらで散らかり放題の部屋に、辰之助とお春が図案とにらめっこをしていた。  
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