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枝垂れ桜の植え替えには時期的には最適だが、やはりその移動は困難を極める。
先ずは幹周りから一間(1.8mほど)の土を残して掘り返していく、余計な傷を付けぬように太い根を切りながら深く掘り進める、掘るのは辰之助が、切るべき根と残すべき根を見極めるのは甚八の仕事だ。
「辰、普通の根回しは半年前にはやっておくもんだ、だが今回は時間がねぇ、根切と根回しいっぺんに手を付けなきゃなんねぇ」
そう言いながら皮をはいだ根っこに煮出した茶と藥草を煎じた汁をペタペタと塗っていく。
「これは俺が考えたもんで、柳沢様でも知らねぇ方法だ」
辰之助が言うまでもなく、甚八は柳沢様を越えるべく試行錯誤を繰り返していたようだ。
「よし、後は任せろぃ!」
東浦頭の用意した曳家連中の掛け声が響く、ろくな舗装もされていない江戸の道を、丸太を並べ倒れない様に引き合いながらゆっくりと進んでいくのだ。
「そ〜れい!」
ザアアアァ…
「そ〜れい」
ザザアアアァ
花が無いとはいえ五間(9m)はある枝垂れ桜が右へ左へと揺れながら街道を進んでいく様は、大名行列の様でもあり花魁道中のようでもあった。
「これだけ見栄を張れりゃ模部平様も喜んでるだろうよ」
三日三晩掛けて模部平下屋敷に着いた頃にはまるで祭りのような騒ぎとなり、黒山のような見物人でごった返していた。
「これがお前の言っていた秘策か…惚れ惚れするような枝ぶりじゃねえか」
その中には立派な着物に袖を通した松木屋の寅政も居た。
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