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「寅政!お前ぇんとこの秘策ってのはいつ見えるんだ?」
「吉野の桜の事か?」
秘策と言う割に、そんなにあっさり話して大丈夫なのか?
「まさか、吉野の山に手を出したらどんな天罰が落ちるか分かったもんじゃないだろ?それに松木屋の仕事は昨日で終わってるんだよ」
「はぁ?」
聞けば寅政の秘策とは桜の木を大和国から移植するのではなく松木屋で育てた山桜の苗木を植えると言うものだったらしい、笑いながらも大木屋の秘策に感心しきりの寅政を見て、毒気をぬかれた辰之助であった。
「しかし辰之助、お前ぇの親方は凄ぇな、見ろよあのす巻きをよ、土が溢れず根を傷付けず、ぎりぎりの巻き方だ、あれだけでも当代一の職人だってのが分かるな」
それが分かる寅政も相当な腕前だろう…。
「ああ親方は凄ぇ、だけど俺はもっと凄ぇ職人になるって決めてるからな」
「ほざいてろよ」
寅政に別れを告げ曳家の指揮を取る親方の所へ戻ると「明日からは休み無しだ」と言われた。
「え?何でですか?」
「ばっきゃろ、明日から芽が出るまで毎日水をかけるのは誰の仕事だと重ってるんだ?」
「水やり…どれくらい掛ければ良いんですか?」
「そうだな、この大きさだと二石(360リットル)くらいは欲しいな」
「え?ニ石って何升です?」
「二十升」
「毎日ですか?」
「毎日だ」
「まさか、正月もですか?」
「ったりめぇだろ!」
ポカリとゲンコツを食らい、やっぱりツツジの方が良かったと思う辰之助であった。
劇終
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