大江戸ガーデニング戦争

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「庭に桜だと?寝ぼけてんじゃねえぞ!」  辰之助は画期的な案だと思い親方の甚八に話したところ、火鉢をひっくり返さんばかりに怒られた。 「いいか?侍連中は俺ら町民とは物の考え方が違う、俺らが桜吹雪をキレイだなと思っててもパッと散る桜なんか侍にとっちゃ不吉の塊なんだよ」  確かに侍連中は縁起を担ぐ、この前も白いカラスを捕まえた者には賞金を出すとか言って江戸中の白いカラスが居なくなった程だ。  満開の桜は見事だが、一斉に散る様や散ったそばから茶色く変色していく花びらは確かに死を連想させるにふさわしい花だ。 「何で桃じゃ駄目なんだ?」 「桃の木じゃ満開の時期でも葉が多すぎるんでさぁ、桃源郷とは言っても緑が多すぎる、それに桃の木には虫が付きやすい、お屋敷の中に虫が湧いたらそれこそ打ち首でさぁ」 「お父っつぁん!」  甚八の娘お春が助け舟を出す。 「私の名前は満開の桜を見て付けてくれたって死んだおっ母さんが言ってたでしょ?桜が不吉なら春は不吉って事じゃないの?華やかな春じゃなかったてのかい?」  弟子や他の植木屋には強面で頑固な甚八だが、亡き妻の残した一人娘のお春には少々甘いところがあった。 「ううん、取り敢えず殿様に話してみるか…」  渋々といった顔で殿様への取次ぎを了承した甚八であったが、内心は新しい事に挑戦しようとする愛弟子を誇らしくも思っていた。
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