11人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
のんびりと散歩に出掛けた娘と愛弟子とは反対に、甚八は針のむしろに座らされていた。
とある武家屋敷にて、正門から通されるほどの甚五郎でもあったが、大木屋の後ろ盾でもある模部平雷文は首を縦に振らなかった、そればかりか平伏する甚八を即刻切ろうと腰のものに手をかけ留守居役に止められていた。
「嘆かわしい…それでも六義園に関わった作庭家の孫弟子か?」
「も、申し訳ございません…」
「よりにもよって武家屋敷の庭に桜を植えようなどと世迷言を申すとはな」
実は六義園のツツジを植えた職人は甚八の師匠筋に当たり、生け垣のツツジなら大木屋甚八、とまで言われるほどの職人でもあるのだが、大名は呆れたような顔をして退出を命じ自らは執務に戻った。
庶民相手の仕事ならいざ知らず、お武家様相手の仕事となれば後ろ盾となる有力な大名にお墨付きを頂戴する事が肝心だが、甚八はその後ろ盾の信用を失いつつある。
模部平が国元に帰った後、その代理を務める留守居役の東浦頭伊庭は平身低頭の甚五郎に対し「近日中に納得の行く作庭図を持参せよ」とだけ命じ、甚八は叩き出されるように屋敷を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!