大江戸ガーデニング戦争

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 親方の甚八がまさかそんな事になっているとはつゆ知らず、辰之助とお春は寄席の店先に出ていた茶店で団子を頬張っていた。 「上方の話ってのは面白いもんだな」 「そうだね、他のお客さんも大笑いしてたもんね」  お春はここ数日、難しい顔をしていた辰之助の眉間のシワが無くなってふふふっと笑った。 「辰之助!辰之助じゃねえか」  突然通りの反対側から聞こえた声に目をやると、体格のがっしりした威勢のいい若者が近づいてきた、同業の松木屋で働いている寅政(とらまさ)だった。   「寅政、お前ぇさんも寄席に行くのか?」 「馬鹿言ってんじゃねえよ、こちとら上屋敷の殿様にお目通りが叶ったんで、銀座まで出向いて上等な着物を仕立てて貰ってきた所よ」 「お目通りが叶った!?」  大木屋とは違って大店(おおだな)の松木屋は働く人間も倍以上に居る、接客を担当する者、土を専門に扱う者、盆栽の手入れを担当する者、仕事の数だけ人間が居るようだったがその松木屋で働いていて、辰之助と同じ年代で大名にお目通りが叶うとは。 「辰之助、お前ぇの腕は認めてやるがこっちにはあっと驚く秘策があるんだよ」 「なにを?こっちにだって秘策のひとつや二つちゃんと準備してあらぁ」 「それは楽しみだ」と、雑踏の中に消えていった寅政の姿を見失いふと見上げると江戸城が見える、あの江戸城を挟んだ西側には甚八が出向いている上屋敷が並んでいるはずだ…。
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