大江戸ガーデニング戦争

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 松木屋の寅政は、辰之助が奉公に出たときには既に松木屋の親方に付いて土をいじっていた、辰之助と同じ様に黙々と仕事をこなし、兄弟子たちの仕事を盗み、どうしても分からないところは頭を下げて聞いてまわった。  寄り合いで松木屋での飲み会から帰った親方も「松木屋の寅政は…」等と感心していた。 「お前ぇも頑張れよ」  と言って背中を押してくれるが、無論、寅政に負ける気はしないし、店の大きさは別だが当代一の庭師である甚八の弟子という気概があった、二人は良きライバルとして切磋琢磨し合う仲なのだ。  その寅政が殿様へのお目通りが叶ったと聞いて、辰之助の眉間に再びシワが戻った。 「はぁ〜、せっかく気晴らしに出たのに眉間のシワがますます深くなっちゃったじゃないの!」  江戸城の影に押されるように家路に付いた辰之助だったが店で待っていたのはさらに深刻な話だった。 「やっぱり桜は駄目ですか…」  もしかしたら?という気持ちはあったが、侍連中の縁起の担ぎ方を甘く見ていた、見栄と虚栄を張るために庭を飾れと言う割に、有りもしない桜の魔力を恐れ縮こまる、辰之助と甚八はほとんど同時にふ〜っとため息を付いた。 「仕方ねぇ…今まで通りのやり方で行くしかねぇ」
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