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俺と妻のルリ子は政略結婚だった。そこそこ大手企業の一人息子だった俺は、そこそこいい教育課程を経て、親の紹介で彼女と結婚した。
「…これは?」
言わなきゃいけないことがある、そう言ったルリ子がテーブルの上に置いたのは、白い封筒。手に取って裏表見てみるが、宛先も送り主も書いていない。
「開けて、読んでみて」
不思議に思いながら、封を開けた。ペリペリ、と糊の剥がれる感覚が手に伝わる。
中には一枚の手紙が入っていて、老眼の始まっている俺はメガネをかけて、その文字を読んだ。
「…っ!」
一文目だけを読んで、差出人が誰かわかった。驚きのあまり、眉間に皺を寄せたまま彼女を見たが、彼女は悲しそうに笑うだけで、何も言わない。
そんな、まさか。だって俺はずっと、会いたくて3月31日には、必ず君に電話をかけていたのに。佐倉一音、君に。
「…どうして、これを……ルリ子が…」
「あなたと結婚してからずっと、あなたが私を好きでないことも他に想い人がいることも、分かってた」
そう言って、彼女は涙を流し始めた。俺は佐倉一音が俺に向けて書いたその手紙をただ握りしめて、震えるしかなかった。
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