演技派

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4.同期会会場 カジュアルな雰囲気のイタリアンレストラン。姉御、ミノリ、ユイの三人がテーブルについている。 姉御、全員分のサラダを取り分けている。 姉御「はい、そのお皿ちょっとこっちに貸して。ほいっと。これで全員だよね?」 ミノリ「(大げさに)いやー、すみませんね。今をときめく『美人演技派女優 』華村アキセンセーにサラダなんか取り分けてもらって」 姉御「何言ってんの。どんな仕事してたってうちは変わらない。みんなと一緒に演劇部で汗流して、ヒーヒー言ってた吉野アキのままだって」 ユイ「いや、でもさ。やっぱり遠いとこに行っちゃった感じあるよ。我らが姉御がさ、テレビに出てると」 姉御「あ、久しぶりに呼ばれたな『姉御』って」 ユイ「ていうか、姉御ってテレビに映ってる時すごいキャラ作ってない? 高校時代とかけ離れてて、笑い堪えるのたいへんなんだよ」 ミノリ「言えてる! ちょっとぶりっ子っぽいよね」 三人、声を立てて笑う。 姉御「(しみじみと)いろいろあるんだよ、こんなキャラで売り込んでいきましょうみたいなのが。なんかさ、昔は演技って舞台に立ってる時だけやってればよかったじゃん?」 ユイ「まあ、そうね」 姉御「今じゃ、どこ行ったってその場に合わせた外向きの『顔』を作んなきゃなんない。疲れるよ……正直さ」 ミノリ「そういうもんなのか」 ユイ「才能のある方は大変ですなぁ」 姉御「もぉ、すぐまぜっ返す。(苦笑いする)……でもさ、真面目な話みんなといる時が唯一、うちがうちでいられる時間なのかも」 ミノリ「(感激したように)姉御ぉ〜」 ユイ「え、待って。不意打ちはやめてよ。泣きそうなんだけど(目頭を押さえる)」 姉御「あれ、いつになく殊勝じゃん。……ひょっとしてあんたら、ここの会計うちに払わせようとしてない?」 ユイ「(舌打ちして)……バレたか」 ミノリ「ゴチになりまーす」 姉御「そういう調子いいとこ、全然変わってない!」 ユイ「まあまあまあ! いいじゃないですか、稼いでらっしゃるんでしょう? ……っていうかさ。ミノリに大学で彼氏ができた話ってしたっけ?」 姉御「何それ? 聞いてない」 ユイ「ほら、写真見せてあげなよ!」 ユイ、肘でミノリをつつく。 ミノリ、身をくねらせる。 ミノリ「いや、芸能界で数々の浮名を流した華村センセーのお眼鏡にかなうかどうか……」 姉御「いや、流してない。流してない! そんな余裕ないよ。家帰ってバタンキューだし」 ミノリ、もったいぶりながら二人にスマホ画面を見せる。 ユイ「それでセンセー、こちらが例の写真なのですが……」 姉御「ほぅ、これはなかなか……」 5.SNS画面 路傍の蟲 @zetsubou_6741 アカウント『路傍の蟲』のホーム画面。 立て続けにメッセージが連投されていく。 『路傍の蟲』の声「……疲れた」 『路傍の蟲』の声「みんなウソツキばっかりだ。心にもないこと言い合って、偽りの自分を演じて何の意味がある?」 『路傍の蟲』の声「……私も例外じゃない」 『路傍の蟲』の声「むしろ、私が一番ひどいウソツキだ」 『路傍の蟲』の声「誰かが求めるから笑う……誰かが求めるから泣く……私の感情はとっくに自分のものじゃなくなってる」 『路傍の蟲』の声「……このままどこか遠くに行きたいなぁ。誰もいないところへ」 『路傍の蟲』の声「この電車、ずぅっと乗り継いで行ったらどこまで行けるだろう」 『路傍の蟲』の声「……なんてねw」 『路傍の蟲』の声「それができる勇気があるならこんなことになってない」 『路傍の蟲』の声「こんな自分を嫌いながら、呪いながら、このままずっとすり減っていくんだ」 『路傍の蟲』の声「……むなしいな」 『路傍の蟲』の声「私にできるのはこれが精一杯。みんなが私のことを何一つ知らないこの場所で、こっそりとこんな言葉を吐き出し続けるだけ」 『路傍の蟲』の声「……くだらないなw」 『路傍の蟲』の声「でも、ここが、ここだけが」 『路傍の蟲』の声「私が本当の自分でいられる場所なんだ」
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