0人が本棚に入れています
本棚に追加
4.同期会会場
カジュアルな雰囲気のイタリアンレストラン。姉御、ミノリ、ユイの三人がテーブルについている。
姉御、全員分のサラダを取り分けている。
姉御「はい、そのお皿ちょっとこっちに貸して。ほいっと。これで全員だよね?」
ミノリ「(大げさに)いやー、すみませんね。今をときめく『美人演技派女優 』華村アキセンセーにサラダなんか取り分けてもらって」
姉御「何言ってんの。どんな仕事してたってうちは変わらない。みんなと一緒に演劇部で汗流して、ヒーヒー言ってた吉野アキのままだって」
ユイ「いや、でもさ。やっぱり遠いとこに行っちゃった感じあるよ。我らが姉御がさ、テレビに出てると」
姉御「あ、久しぶりに呼ばれたな『姉御』って」
ユイ「ていうか、姉御ってテレビに映ってる時すごいキャラ作ってない? 高校時代とかけ離れてて、笑い堪えるのたいへんなんだよ」
ミノリ「言えてる! ちょっとぶりっ子っぽいよね」
三人、声を立てて笑う。
姉御「(しみじみと)いろいろあるんだよ、こんなキャラで売り込んでいきましょうみたいなのが。なんかさ、昔は演技って舞台に立ってる時だけやってればよかったじゃん?」
ユイ「まあ、そうね」
姉御「今じゃ、どこ行ったってその場に合わせた外向きの『顔』を作んなきゃなんない。疲れるよ……正直さ」
ミノリ「そういうもんなのか」
ユイ「才能のある方は大変ですなぁ」
姉御「もぉ、すぐまぜっ返す。(苦笑いする)……でもさ、真面目な話みんなといる時が唯一、うちがうちでいられる時間なのかも」
ミノリ「(感激したように)姉御ぉ〜」
ユイ「え、待って。不意打ちはやめてよ。泣きそうなんだけど(目頭を押さえる)」
姉御「あれ、いつになく殊勝じゃん。……ひょっとしてあんたら、ここの会計うちに払わせようとしてない?」
ユイ「(舌打ちして)……バレたか」
ミノリ「ゴチになりまーす」
姉御「そういう調子いいとこ、全然変わってない!」
ユイ「まあまあまあ! いいじゃないですか、稼いでらっしゃるんでしょう? ……っていうかさ。ミノリに大学で彼氏ができた話ってしたっけ?」
姉御「何それ? 聞いてない」
ユイ「ほら、写真見せてあげなよ!」
ユイ、肘でミノリをつつく。
ミノリ、身をくねらせる。
ミノリ「いや、芸能界で数々の浮名を流した華村センセーのお眼鏡にかなうかどうか……」
姉御「いや、流してない。流してない! そんな余裕ないよ。家帰ってバタンキューだし」
ミノリ、もったいぶりながら二人にスマホ画面を見せる。
ユイ「それでセンセー、こちらが例の写真なのですが……」
姉御「ほぅ、これはなかなか……」
5.SNS画面
路傍の蟲 @zetsubou_6741
アカウント『路傍の蟲』のホーム画面。
立て続けにメッセージが連投されていく。
『路傍の蟲』の声「……疲れた」
『路傍の蟲』の声「みんなウソツキばっかりだ。心にもないこと言い合って、偽りの自分を演じて何の意味がある?」
『路傍の蟲』の声「……私も例外じゃない」
『路傍の蟲』の声「むしろ、私が一番ひどいウソツキだ」
『路傍の蟲』の声「誰かが求めるから笑う……誰かが求めるから泣く……私の感情はとっくに自分のものじゃなくなってる」
『路傍の蟲』の声「……このままどこか遠くに行きたいなぁ。誰もいないところへ」
『路傍の蟲』の声「この電車、ずぅっと乗り継いで行ったらどこまで行けるだろう」
『路傍の蟲』の声「……なんてねw」
『路傍の蟲』の声「それができる勇気があるならこんなことになってない」
『路傍の蟲』の声「こんな自分を嫌いながら、呪いながら、このままずっとすり減っていくんだ」
『路傍の蟲』の声「……むなしいな」
『路傍の蟲』の声「私にできるのはこれが精一杯。みんなが私のことを何一つ知らないこの場所で、こっそりとこんな言葉を吐き出し続けるだけ」
『路傍の蟲』の声「……くだらないなw」
『路傍の蟲』の声「でも、ここが、ここだけが」
『路傍の蟲』の声「私が本当の自分でいられる場所なんだ」
最初のコメントを投稿しよう!