演技派

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1.どこかの部屋の中 ユウジとリナ、互いに向かい合っている。真剣な表情。 リナ「ユウジくん……わたし思うの。人は誰もが仮面をかぶってる。もちろん、わたしもそう。これまで誰かの期待のままに生きてきた。人の望む姿、いい子のふりばかり。でもね、ユウジくんといる時だけは仮面を付けなくて良かった。本当のわたしになれたんだよ。だから、だからね……(声を詰まらせる)」 ユウジ「リナちゃん……」 リナ「(泣き笑いで)わたしと……ずっと一緒にいてください」 2.撮影スタジオ1 照明がつき、スタジオの全景が露わになる。部屋のセットの周囲で忙しげに動き回る無数の撮影スタッフ。 AD「はい、カーット!!シーン32、テイク2 OKです。今日はここまでかな、お疲れ様!」 「カット」の声を聞いて、リナ役のアキ、ユウジ役の尾形、その他スタッフの緊張が解ける。 アキ「やーーーっっ!!!(甲高い声で絶叫)よかった、かまずに言えたー!」 尾形「(苦笑いしながら)アキちゃん、声デカい、声デカい。頭キーンってする」 アキ「あっ、ゴメンなさい。でも、さっきセリフかんじゃったから、ちょっとキンチョーしてたんですよ」 尾形「(いたずらっぽく)まあ、えげつない噛み方してたもんね。『人は誰もが仮面をかばばばぼば』みたいな」 アキ「尾形さんー、蒸し返さないでくださいよぉ。……どうしたんですか? 人の顔まじまじと見て」 尾形「いや、アキちゃんって素のキャラと役柄、全然違うなと思って」 アキ「まあ? わたくし、演技派……ですし?(語尾少し上げる)」 尾形「すぐ調子に乗る! 違う違う違う。さっきまでここにいた『リナ』はどこ行った⁉︎」 アキ「あれ、何か褒められてる気がしない……」 尾形「いや、褒めてないからね! お茶の間のみなさーん、この人ホントはこんな感じでーす。」 アキ「はーい、いつもはいい加減でーす。次回もみてねー、ばいばーい」 アキと尾形、カメラ目線で笑顔を作り、手を振る。 3.撮影スタジオ2 手を振り続けるアキと尾形。 AD「はい、カッート!! 今週分のオフショット撮影終了です! 本日の予定は以上となります。お疲れ様でした!」 アキと尾形を収めたカメラの録画が止まる。ようやく手を振るのをやめる二人。 スタッフたち「(口々に)お疲れ様でーす」 AD「はい、撤収しまーす!」 アキと尾形のところへ監督がやってくる。 監督「予定より早めに終わってよかったね。アキちゃん、お疲れ様」 アキ「監督、申し訳ありません。今日ご一緒できなくて」 監督「いいっていいって。(顔の前で片手を振る)有志で飲みたい人が来てるだけの集まりだから。それにアキちゃん、いつも顔見せてくれてるしね」 尾形「あっ今日だったか。前々から言ってたよね。高校の同窓会だっけ?」 アキ「いえ、部活の同期で集まることになってて」 尾形「貴重な機会じゃん、ゆっくりしてきなよ」 監督「(冗談まじりに)ただ、あまりハメは外しすぎないでくれよ。明後日また撮影だから」 アキ「気をつけます。監督、尾形さん、お疲れ様でした」 アキ、二人にそれぞれ一礼ずつしてその場を立ち去る。 監督「はい、お疲れ」 尾形「お疲れ様〜」 手を上げて見送る二人。 尾形「……いや、しかししっかりした娘ですね」 監督「挨拶欠かさないし、自由参加の飲み会にもきちんと付き合うしな。今時珍しいよ。事務所が天真爛漫キャラで売り出したいのか、カメラの前だと全然違うけどな」 尾形「まあ、僕らの仕事は役に入ってる時だけじゃないですからね。付いたイメージに合わせて振る舞うのも立派な演技です。まあ、彼女は特にそれが上手いですよね。同業者としてうらやましいです」 監督「演技派としてどう育って行くのか、今後が楽しみだよ。そう言えば、19時開始って言ってたか。今から行ったら間に合うだろうな」 尾形「そうですね……じゃ、僕もそろそろ失礼して(話しながら徐々に後ずさりしようとする)」 監督、尾形の肩をガシっとつかむ。 監督「君もアキちゃんを見習ってたまには参加してくれていいんだよ、尾形くん?」 尾形「いや、ついさっき『自由参加』って言ってたじゃないですか⁉︎ 勘弁してくださいよ〜。僕、プライベートは大事にしたい人なんですよね」
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