アンチーブの街

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 イギリス人は紹介されなければ話さないと何かで読んだことがあるけれど、この南仏では英国のお固いルールから解放されて自由になるのか、優吾が昨夜街に出た時にも、あちこちで大声をあげてはしゃぐイギリス人や、ナンパをしている若者をちょくちょく見かけた。  目の前のダークブラウンヘアーの男はいかにも優男という感じで、先ほどアンチーブの丘や売店で会った雄を強調したような男たちとは違って、危険な匂いがしない。暇つぶしなら、一緒に過ごしても問題は無さそうだ。  しかし、優吾の周囲にはきれいな女性たちが沢山いて、バカンスを楽しんでいるというのに、どうして男ばかりに声をかけらるのだろう。  疑問と不満を押し隠し、優吾はジョージに笑いかけた。 『俺は優吾。今、何時? できれば飲むだけでなく、軽く食べられるものがあると嬉しいんだけど。昨日ここに着いて、レストランとかを覗いたら、みんなカップルばかりだし、一人で入りづらかったんだ。サンドイッチとかそんな乾きものばかりの食事は、さすがに飽きちゃった』 『もうすぐ、十九時だよ。二十時ごろからライブをやる店があるんだ。そこなら軽食もとれる』 『えっ、ライブ? どんな曲をやるんだ?』 『客の殆どがイギリス人だから、英語の曲。暗くなると、店のすぐそばに、アクセサリーや絵なんかの屋台がずらりと並ぶから、曲が気に入らなければ冷やかしにもいけるよ』 『行く。その店に連れてってくれ』  ライブと聞いた途端に優吾は空腹を忘れ、生演奏を聴ける期待に胸を膨らませた。
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