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そうこうしている間に席はほぼ満席になり、傍を通ったゲイカップルの背の高い方がジョージに気づいて立ち止まった。
『ハイ!ジョージ! 今夜は美人を連れてるじゃないか。こいつはオーウェン。そっちは?』
美人って誰のことだと優吾が不機嫌そうに訊ねると、相手は降参とばかりに両手をあげた。ジョージがその男のツレに挨拶するのにつられて、優吾もオーウェンに視線を移すと、長く伸ばしたアッシュブラウンの前髪ごしに、まるで値踏みでもするように、目の前の席に座っている優吾を上から遠慮なく見つめているのとかちあった。
無言でなおも見つめる不躾な態度にカチンときた優吾は、何だよと文句を言うつもりで伸びあがってオーウェンの顔を覗き込む。
前髪で隠しているぐらいだから、目の形にコンプレックスがあるのかと勝手に想像していたが、くっきり二重の目は美しく何の問題もない。オーウェンの鼻の形も口の形もすっきり整っているのだから、眼も見せればいいのにと優吾が思議に思った瞬間、顔を逸らすように上げたオーウェンの顔に照明が当たり、前髪ごしに瞳にも光が差す。
あれっ? 片方ずつ目の色が違う。グリーンと金茶の瞳だ。
こういうのをバイアイって言うんだっけ? だから前髪で目を隠しているのか?
別に恥じるべきことでもないのに、どうして隠すのかと不思議に思ったこともあるが、優吾はオーウェンの顔をどこかで見たことのあると感じて目が離せなくなる。オーウェンが舌打ちをして、優吾を睨みつけたとき、ジョージが慌ててオーウェンの隣に立つ男を小突いた。
『マイケル、オーウェンを連れて空いている席に座れよ。ユーゴがきれいだからって横見をするなよ。褒めるなら自分のツレだけにしとけ』
すると、オーウェンが不快そうに口元を歪めた。
『誤解しないでくれるかな。マイケルと僕はそんな仲じゃない。今夜僕の昔の知り合いが、飛び入りでプレイするかもしれないと聞いたから、ここには一人で来たんだ。ちょうどそこでマイケルに声をかけられて、仲間がテーブルを確保してるっていうから、同席させてくれって頼んだんだよ』
オーウェンがチラリと視線を投げた方向を見ると、後方の壁際のテーブルについた二人組が、早く来いとマイケルたちを呼んでいる。なるほどと納得したジョージが、オーウェンに話しかけた。
『君の知り合いは有名人なのか? 今日は早くから席が埋まってるから、おかしいなと思っていたんだ』
『まあ昔はね……。でも彼はもう何年も表舞台には立ってないし、素性を秘密にしてるから、僕の口からは言えない』
言い終えると、オーウェンはマイケルをおいて、さっさと壁際の席へと歩いて行ってしまった。
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