プロローグ

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「ほんと、バカみてー。くさいメロドラマじゃあるまいし、何浸ってるんだか」  バッサリ切り捨てるには、まだ傷が生々しすぎる。  信じていたんだ。ストレートの律の恋人になるのは望めなくても、俺があのバンドで歌う限り、あいつの隣の居場所は俺のもので、音楽で結ばれた絆は、誰にも切ることはできないって‥‥‥ 「律‥‥‥お前が来たがっていた南フランスに先に来てやったぞ。絵葉書を送ってやるから、羨ましがれってんだ」  グルーピーに手を出して、妊娠が発覚。週刊誌にすっぱ抜かれて結婚へ。  幸せ婚を演出するために、新婚旅行も嫁の希望のハワイときた。  笑わせる。本当に大笑いしてやるぜ! 「何がお前をスターにのしあげてやるだよ。たかだが高校時代に、人気のあったアマチュアバンドのギタリストをやってたぐらいで、大口叩きやがって! お前のプレイに憧れてギターをかじったのに、ボーカルを勧めたのはお前だぞ。なのに中途半端に放り出しやがって。一体どうしろっていうんだよ」  大学に行ってから本格的に組んだバンドは、それなりに楽器に精通した奴らが集まり、ライブでもかなりの席が埋まるようになっていた。  優吾がバイトをしている楽器店のオーナーにも話が行き、練習場所やロゴの入った衣装なんかを支援してもらって、周囲からも、メジャーデビューが狙えるんじゃないかと言われて、仲間もその気になっていたのに…… 「これからってときに、ファンの人気を俺と二分するリーダーの律ができ婚って、イメージダウンもいいところだ」  ただでさえバンド活動は金がかかるのに、人気が落ちて出演依頼が減ったことから、収入が見込めなくなっていき、その原因を作った律は、早々にバンド活動に見切りをつけ、子供を育てるために真っ当な仕事に就くと言い出した。  楽器店の店長からも、まるで止めを刺すように、これからは優吾たちの後輩にあたるロックバンドの方に力を入れると宣言された時のショックは、言葉にできない。
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