プロローグ

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 太陽を背にして立つ長身の男の髪が、そいつの怒り具合を示すように、風に煽られ炎のように揺れている。圧倒されて見上げていると、男は膝をつき、優吾のTシャツを掴んで上体を引き起こした。  逆光で陰っていた髪は、間近で見ると、渋いサンディーブロンドのミディアムヘアーだと分かった。  根本から立ち上げた前髪を左から右に流しているのが男らしい。左側のサイドはタイトにまとめられ、トップは前髪同様に、ウェーブがかった髪を右へと流していて、陽に焼けて変色したプラチナブロンドの髪が、サンディーブロンドの上で、メッシュを入れたように縞を作っている。  怒りに吊り上がったペールブルーの瞳は、鋭くとがった氷のようで、あまりの気迫に優吾は背筋を凍らせた。  プラチナとサンディブロンドの縞模様の薄い髪色のせいか、睨みつける瞳の威力からなのかは分からないが、優吾の脳裏に唐突に浮かんだのは、以前写真でみたベンガル虎の白変種、ホワイトタイガーの姿だった。 『おい。何か言ったらどうだ? お前はジャポネ(日本人)シノア(中国人)のどっちだ?』  このくらいのフランス語なら優吾にも分かる。優吾がジャポネと言いかけたとき、男がハッと目を見張った。  男の大きな手が伸びてくるのに驚いて優吾が動けないでいるうちに、体温の高い手に頬を包まれ、目じりに溜まった涙を親指で拭われた。羞恥にかられた優吾は、咄嗟に相手の手を叩き落としていた。 『ジャポネーゼだったのか。手荒な扱いをしてすまない。ボーイッシュな恰好をしているから、てっきり男の子だと思って‥‥‥』
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