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ここに来る前にパリにも寄ってみたが、デパートやブティックに並ぶ商品は全て洗練されていて、モノトーン色が強かった。
でも、南仏は逆だ。
輝く太陽の下、目を奪うようなコバルトブルーの海や、色とりどりに咲き誇る花々が、生き生きとした色彩のパラダイスを作っている。
南仏に滞在したピカソやゴーギャン、セザンヌ、マティスなどの有名画家の絵がどうしてあんなに色鮮やかなのかを、日本にいたらその理由を知ることも無く、圧倒されるような色の温度を肌や目で感じることもなかっただろう。
狭い路地を挟んで、所せましと並ぶブティックには、色とりどりの商品が喧嘩をすることなく美しく配置されていて、暗さやせせこましさなどを微塵も感じさせない。
律は、絶対に選ばない色。
ギタリストは目立ちたがり屋で、自分がいないとバンドが成り立たないと思っている者が多いと、楽器演奏者別性格診断に書いてあった。
律は確かにバンドを率いるリーダーだったけれど、物事の正確さに拘った。
コピーバンドから抜け出せなかったのは、そのせいもあるのだろう。
黒と白の世界。エッジが利いてスタイリッシュに見えるけれど、個性のない音楽。
―「優吾。ちょっとそのパートに感情を入れ過ぎだ。バランスを考えて。ヘビメタじゃないんだから」―
別にシャウトしたわけではないけれど、律のギターに耳を傾けて声を調整する。
『ねぇ、君一人? 良かったら一緒に飲みにいかないか?』
突然かけられた声に現実に戻ると、いつの間に食べ終えたのかアイスクリームは消えて、コーンだけを片手に持った無造作ヘアーの小ぎれいな東洋人と目が合った。
それがショーウィンドーに映った自分だと理解した途端に、苦笑が漏れる。
バンドをやるならルックスは大切だと、律に言われるまま作り込んだ外見。まるでマネキンだなと思いながら、優吾はジョージだと自己紹介をする若い男に視線を移した。発音からして多分イギリス人だろう。
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